SaaSNapkin2017

2017年、SaaSスタートアップが資金調達する際に必要なこと

この記事はシリコンバレーの投資家、Christoph Janz氏によるブログを許可をいただき翻訳したものです。Janz氏はPoint Nine Capitalのマネージングパートナーで、ZendeskなどSaaSスタートアップに数多く投資しています。2016年版はこちらからご確認ください。

なお、Janz氏の投稿は、Jason M. Lemkin氏(世界最大のSaaSプロフェッショナルのコミュニティSaaStrのfounder、Adobeに買収されたEchoSignのCo-Founder、Talkdeskなどに出資)、Tomasz Tunguz氏Redpoint Venturesパートナー、ExpensifyLookerなどに出資)およびJanz氏の同僚などシリコンバレーの著名なSaaSエキスパートによるレビューを受けています。


2017年が始まり、ドナルド・トランプという最低な男をアメリカは新たなリーダーとして迎えようとしています。私にとっては未だ信じがたいことのように感じています。またその一方で、2017年を迎えたということは、私の「2016年版SaaSスタートアップが資金調達するのに必要なこと」を示した一覧表も更新する必要があるということも意味しています。覚え書き程度に、もともとのブログポストに「2016年SaaS業界において資金調達するのに何が必要か」簡単な計算式を示そうとも思いましたが、今回2017年版としてこの質問にお答えしたいと思います。

2016年版と同様に、創業チームは比較的「まだ実力が証明されていない」という前提のもと、この一覧表を作りました。 過去に重要なEXIT経験を持つ創業者においては、早い段階から高額なバリュエーションがつき、多額のシード調達ができます。そのため、「ルール」は異なります。 また、別の注意点としては、「資本調達には何が必要なのか」考えるということは、「著名な投資家から首尾よく資金調達するには何が必要なのか」ということを意味しています。つまり、あなたの会社がこの一覧表に描かれた(非常に高い)基準を満たしていないからといって、まったく調達できないということではありません。 しかしその場合、おそらく資金調達は簡単ではなく、多くの投資家と話をする必要があり、著名なベンチャーキャピタルからは調達できないかもしれないということを意味します。

1)基準はより一層厳しくなっている
私は2年前すでに、SaaSスタートアップに必要な資金が増加していることについて書いていますが、それ以来基準は高くなり続けています。 Tomasz Tunguz氏(Redpoint Venturesパートナー)の、優れたシリーズA企業のベンチマーク分析によると、マネタイズした初年度の平均MRRが1万ドルから9万ドル以上に増加しています。さらに2年目の終わりのMRRは40万ドル以上に増加していることがわかりました。

TwilioWorkdayZendeskといった企業が示しているように、最も優れたSaaS企業は6〜7年ほどでARR1億ドルに達することができ、その後も前年比で約50〜70%で成長し続けられるます。 Slackは信じがたいことに、ローンチから2年半でARR1億ドルを達成しました。Slackはこうした優れたSaaS企業の中でも特にずば抜けています。しかし、2017年にシリコンバレーのトップクラスの投資家が探しているのは、約7年で1億ドルを達成し、その2〜3年後に3億ドルを突破する規模で成長できるような企業です。

2016年版の成長率はすでに「T2D3(Triple, Triple, Double, Double, Doubleの略、詳しくはこちらの記事を御覧ください)」と一致していたため、これを反映するために一覧表に多くの変更を加える必要はありませんでした。 シリーズBの調達額、バリュエーション、MRRの範囲を増やした程度の変化です。これはレイトステージの投資家の期待がじわじわとアーリーステージまで伝わってきたためです。そこで、シードステージにおいて求められるARRのポテンシャルを「1億ドル以上」から「1〜3億ドル以上」に変更しました。

2)もはやワークフローツールだけでは十分ではない
主としての機能がワークフローツールであるだけのサービスが、巨大で長期的に持続可能なSaaSビジネスを構築できるかどうか、投資家はこれまで以上に懐疑的になっています。成功したすべてのソフトウェア製品は、そのプロダクトをコピーし、より低価格で提供しようとする人々が多く引きつけてしまうため、次第にコモディティ化されてしまうと考えているからです。もちろん、この懸念自体は新しいことではありませんが、ほとんどのSaaS領域が飽和状態にある現在、投資家はこれまで以上にビジネスに参入障壁を作るための方法を模索しています。 2017年にSaaSのスタートアップとして資金を調達したいのなら、あなたが本当に「system of record(特定の事業プロセスのためのバックボーンとなるソフトウェア。例:SAP、Salesforce、Intuit、Workdayなど)」になれるのか、真のプラットフォームやエコシステム、マーケットプレイスを構築したり、独自のデータ資産を構築できるか投資家に問われるでしょう。後者に関しては今年特に注目されるため、一覧表の 「競合優位性」の行で強調しました。ユーザーベース全体から大量のデータを収集し、そのデータをAIや機械学習で処理しソフトウェアをより一層高度なものにすることも、現在大きなテーマの1つとなっています。それが価値あるものであれば、AIと機械学習は過剰に取り上げられている話題だとは思いますが、それも正当化されるでしょう。

これまで書いたように、数年でARR1億ドルに達したり、シードステージでARR3億ドルを達成できるか検討したりといったことはあまりにも無茶な話と感じるかもしれません。この議論はする必要がないでしょう。確かに大半の主要なSaaS企業は、このレベルのグロースや規模まで達しませんが、それでも創業者に人生を変えるだけの富をもたらしたり、初期の投資家にすばらしいリターンを与えられたりするほどの、成功した収益性の高い会社になることは可能です
。VCとしてはそのビジネスモデル的に偉業を欲していますが、それは起業家の問題ではありません。もしあなたが自分たちにはぶっ飛んだ偉業を達成できるという強いポテンシャルがないと思うのなら、VCからの資金調達はそもそも合っていない選択かもしれません。

話はここまでにして、実際に2017年版SaaSスタートアップの資金調達に必要な事柄の一覧表をご紹介しましょう。

 

2017 SaaS Funding Napkin by Christoph Janz

 

今回500 Startups Japanでは、日本の投資家にもこの基準に関してコメントをもらいました。

浅田慎二氏/Salesforce Ventures日本代表

「日本企業では、長らくなんでもSIERにスクラッチ開発を依頼したチャレンジングなUIUXの業務ソフトを使う文化が一般化していましたが、徐々にオープン系・情報システム系において、手軽に利用ができるSaaSを導入するトレンドに移ってきています。すでに2015年度国内クラウド市場は1兆円を突破しており、2020年には3兆円規模になるとMM総研は予測しています。
それを支えるのは、国内SaaSスタートアップであって欲しいと心から願っています。

国内のSaaSスタートアップには、ぜひとも先行しているUSで溢れているSaaSのGrowthノウハウをStudyしT2D3を目指し、営業プロセスの因数分解(科学化)を通じ徹底した分業/生産性向上の追求、カスタマーサクセスといった「成功のための仕組み」をどんどん取り入れていってくれればと思います。そして世界に誇るSaaSベンチャーが1社でも出てきて欲しい。勝手を言うと、できればSalesforce Venturesの中から出てくると良いなあと(笑)。

VC側でも、SaaSのUnit economicsの理解が進んできているので、同じプロトコル(言語)でこのNapkinのような会話ができるスタートアップがもっと増えてきて欲しいです。」

前田ヒロ氏/BEENEXTパートナー

「日本ではARR10億円ぐらいで上場することができるので、アメリカのようにポテンシャルARRが100億円〜300億円は必要なく、50億円〜100億円のARRポテンシャルがあれば十分に魅力的な投資になります。アメリカのSaaS企業は上場まで合計で80億円〜150億円調達すると言われているが、日本は合計15億円ぐらいの調達で上場するところがほとんどだと思います。また、日本はアメリカに比べて競争率が低いのと、人件費も安いので日本のSaaS企業のコスト効率は比較的高いでしょう。
しかしJanzが述べたように、投資基準が厳しくなっているのは日本も例外ではないと思います。SaaSに新規参入する起業家も増えてると同時にそれに投資するVCも増えています。最近まではT2D3の成長は日本のSaaSスタートアップは無関係だと思っていましたが、今はそのような高い成長率とマーケットシェアの獲得が重要になってきています。また、データ(Machine Learning等)の活用も必須になってきているでしょう。」

James Riney澤山陽平/500 Startup Japan

「日本の場合、SaaSプレイヤーがどの領域でも比較的に少ないことが大きな違いだと考えています。まず、適切なベンチマークがほとんどないため、バリュエーションがKPIよりも交渉のパワーバランスで決められる印象があります。また悩ましいのは、競合が少ないため、バリュエーションが高めになる傾向がある一方で、アメリカと比べると市場が小さく平均のイグジット金額が低いことです。とはいえ、最近では「SaaS is Sexy」なトレンドが到来しつつあり、起業家が増えたので今後数年の間には大きなシフトが起きると期待しています。」

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