Khailee Ng Slush Singapore

指数関数的成長のために、起業家・投資家・政府がすべきこと

500 Startups JapanはグローバルVCとして、その学びを日本のスタートアップエコシステムに関わる皆様に提供しています。その取り組みの1つとして、世界各地のパートナーやメンターによる起業家のための情報を日本語でも提供しています。

今回は500 Startups マネージングパートナーのKhailee Ng氏がSlush Singapore 2016で語った、”Exponential Changeにどう対処するか”についてご紹介します。


起業家、投資家は皆、”Exponential”(指数関数のように急)なカーブを頭では理解していると思いがちです。VCや投資家は、指数関数的に成長をするスタートアップをどう見定めるか知っていると信じているし、起業家たちは皆、自分たちがつくる会社が、指数関数のように急成長すると信じています。

Tutor Vistaより

Tutor Vistaより

しかし、実際はそうではありません。

物事が実際に指数関数的成長を遂げている時、多くの人はそれをただの直線とみなしてしまい、この成長を見逃してしまうことさえあります。そのくらい、人々にとってこの本質を把握することは難しいのです。

そこで、これからいくつかの統計を用いながら、この神話の嘘を暴いていきます。

指数関数的成長を見逃してしまう、3つの理由

まず、”Exponential Curve”の形は、皆さん知っていると思いますが、これに対処するのが難しい理由は、3つあります。

1.初期の成長は穏やか
指数関数的成長では、どの分野においても、最初はとってもゆっくりで、すべて平坦に思えます。直線的成長にすら見えないことさえあります。

するとファウンダーは、「どうやって、自分の会社がexponentialなポテンシャルがあると言えるんだ」と悩みがちになってしまいます。これは起業家にとって、とても辛いことです。

2. 実生活で指数関数的成長に触れる機会は少ない
私たちは、頭では”exponentialなカーブ”がどういうものか理解しています。しかし、私たちが生きてきた社会は、”直線的な”世界でした。

私の母はシンガポール人ですが、私はマレーシアで生まれ育ちました。私や私の親戚や多くの友人も、学校では皆、1年、2年、3年、、というシステムの中で教育を受けます。これは世界のほとんどの地域で導入されているこの教育システムを見ても、とても”直線的な”世界であると言えます。

特に、東南アジアでは、イソップ物語などのおとぎ話の中で、カメのように、ゆっくりでもいいから、安定(一定)した速さで進むことが成功の鍵である、と長いこと教えられてきました。ウサギが何倍もの速さで先に進んでも、途中で油断をして昼寝をするから、ゆっくりでも着実に進んでいるカメは最終的に勝てるんだ、という教訓です。

でも、よく考えてください。今はインターネットの世界です。あなたは眠っているウサギを相手にしているわけではありませんよね?世界中には、ネットで繋がった先で何千ものウサギたちが、24時間・7日間働いているのです。ここでは、カメの戦法(一定の速さでゆっくり進む)は通用しません。でも、これが、今わたしたちが置かれている状況といえます。

3. 指数関数的成長は予測が難しい
スタートする前に、どれだけ大きいものを得られるか予測するのが難しいために、指数関数的成長を見逃してしまうのです。

これについては、私にも失敗談があります。

私が500 Startupsとして東南アジアで投資を始めたとき、物事はゆっくり動いているように思えました。SlushのようなテックイベントやVCのためのカンファレンスもここになかったし、ほとんど、何も存在していなかったといっても過言ではありません。物事は平坦に思えました。

この地域の投資には、ファンドサイズは1000万USドルもあれば十分だと思いました。しかし、間違っていたのです。市場に良いスタートアップが溢れ始めたため、急遽私はもっと多くの額を資金調達しなければならなくなりました。そして私は幸運なことに、初期のGrabCarousellBukalapakを含む、優秀なスタートアップを見つけられたのです。

ここで、東南アジア政府とVCが、東南アジア地域で起こっていることを過小評価しすぎていたことについてもお話しましょう。

GoogleとTemasekが共同で出した2016年5月の報告書によると、東南アジアのインターネットエコシステムは、2025年までに2,000億USドルになる価値があると言われていますが、それを実現するためには、500億USドルのVCによる投資資金が必要だといいます。現在、東南アジアはこのVCの投資資金が少ないことが問題となっています。

対GDP比でいうと、これは中国の3.4分の1、インドの5.4分の1、アメリカの10分の1ほどです。もし東南アジアがVCに十分な資金を投じず、スタートアップに投資しないのなら、他の人や地域が先に投資してしまうでしょう!

実はもうすでにこの現象は起こり始めています。過去2年間、ほとんどの東南アジアのVCへのファンド投資は日本やシンガポールのファンドから行われています。ではマレーシア、タイ、インドネシア、フィリピンといった地域はどうでしょうか?この状況が続くのであれば、東南アジアの企業は、政府や企業が指数関数的な特徴を過小評価していたことが原因で、他国がその株式を保有してしまうでしょう。

さて、それでは我々はどうすべきでしょうか?

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指数関数的成長に対する、3つの対策

1、政府 – You have to own your future!
政府は、自分たちの未来を”所有する”べきです。

Grabの創業者、Anthony TanとHui Lingはどちらもマレーシア人で、彼らはマレーシアでMyTeksiという事業を始めました。するとすぐに多くのシンガポール投資家たちから出資を受け、さらに中国の投資家からも出資を受け、彼らはHQをシンガポールに移し、ついにはシンガポールのスタートアップと認められました。

そんな時、マレーシア政府は「あの企業は何だ?もともとマレーシアから始まったと聞いたのに、なぜ今シンガポールの企業になっているんだ?」という感じで、彼らは、何が起こっているのかさえ分かっていませんでした。

政府は、急速に成長するスタートアップコミュニティの中で、自国の優秀な企業や人材、機会を逃さぬよう、迅速に動き、自らの未来を確保しなければなりません。

2、VC – Retention is the new “traction”
VCは、リテンションこそが「新しいトラクション」であることに気づきましょう。

私を含め、我々VCはユーザーグロースのトラクションを追い続けるという間違いをしてきました。そしてスタートアップがさらなるユーザーを獲得できるよう、投資をしてきたのです。

もしも、我々がもっと深くまでみることができたら、つまり、「すべての顧客がどこからきているのか?」「リピート客なのか?」「リテンションからなのか?」「オーガニックからなのか?」「それとも、広告から来ているだけなのか?」まで分かれば、グロースをつくることだけに、お金を投入するのは最適だとはいえません。

新しいトラクションは、”リテンション”です。

我々は、継続購入が続いたり、顧客が戻ってくることで、”何が本当に指数的成長をつくっているのか”にあたる、ユーザーのコアハート(本当の心理)がみたいのです。

3、起業家 – Double down on what works
起業家は、上手く行っている事に倍賭けするべきです。

a. たとえユーザーグロースが直線で平坦でゆっくり成長していたとしても、顧客のコアハート(本当の心理)をよく観察することが重要です。

それぞれのセグメントに沿って、顧客を深くまでよく見るのです。なぜなら彼らの中に、実際に戻ってきて、継続購入をするカスタマーグループがいるはずだからです。セグメント別なのか、広告キャンペーンなのか、もしくは別のものか、一度それが判明したら、そのエリアへの投資と努力を倍にして、加速させましょう。

b. 次に、それが稼働し始めたらユーザーにとって、バリアとなるものを全て排除します。多くの起業家は、いったんサービスが軌道に乗ると、さらに良い特徴や機能をサービスやAppに追加したがりますが、これは非常に危険なことです。彼らは、サービスが指数的成長をし始める可能性を秘めているにもかかわらず、無駄なものを追加し続けることによって、ほとんど台無しにしてしまうのです。

一度物事が進み始めたら、創業者は、顧客がサービスやプロダクトを使いやすくなるような障壁となるものを可能な限りなくすべきでしょう。そうすることで、指数的成長が加速します。

c. 最後に、指数関数的成長を感じられないときは、VCから資金調達を行うも良し、何が起こっているかいくつかの実験を試みるべきでしょう。どこかのタイミングで資金を投入しなければなりません。

ここで、多くの起業家はチームやマーケット、エコシステムや人々のせいにしたがりますが、ただ1つ彼らが批判しないことがあります。それは、実行の速さです。あなたは、より短い期間の中で、物事を先に進められるチームをつくる必要があります。KFitの事例(2週間かかるとチームメンバーに言われた作業を、2日で終わらせるようにチームに強要した)のように、あなたのチームの実行スピードを早くし、短い時間で物事を進められることにチームを慣れさせられれば、指数的成長を得られる可能性が一気に生まれます。

500 Startupsが行う、指数関数的成長への支援

500 Startupsは、過去6年間で50ヶ国の1,700社に投資をしてきた、世界で最もアクティブなシード投資家です。私たちは、この中で指数的成長が起こるよう起業家たちに強要してきましたし、自らもそうなりたいと考えているからこそ、東南アジアでは、24ヵ月間で120社に投資をしてきました。また、さらに投資領域や地域を広げるために、こんなファンドが、東南アジア以外に10個も展開しています。

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これまで、”the age of consumption”の中で、何億という人々が、IT企業が提供するインターネットを利用してきました。私は、次の10年間で、”the age of creation”に人々をもっと巻き込んでいきたいと思っています。世界中の人々が会社をつくり、指数関数的成長をつくっていける(もしくはそれに参加する)ようにして、それぞれが自らの未来を保有してほしいと考えています。

500 Startups は、最も巨大なシードVCになることで、資金投資だけでなく、エコシステムにおける教育、スタートアップへのサポート、価値の高い”Creator”たちのネットワークをつくっていきたいと考えています。これを、世界中の何千もの企業に対して行っていきます。マーケットを待つのではなく、ともにマーケットをつくっていきましょう。私たちにはそれができます。

Mami Higashino

高崎経済大学4年。アメリカ留学を経て帰国後、フィンランド発のスタートアップイベント、Slush Asiaの運営に携わる。関心の強い分野は、地域間における教育と機会の格差。

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