SCHAFT Kato San

SCHAFTをGoogleへ売却した加藤氏に聞く、海外企業へのM&Aとは

500 Startups Japanでは、グローバルVCとしての実績やつながりを生かし、ポートフォリオ企業の海外進出を支援しています。海外へ事業を展開する際だけではなく、日本のスタートアップの海外トップVC・企業からの資金調達や、海外企業への売却も積極的に支援していきます。

今回は500 Startups Japanのメンターで、Googleへの会社売却経験を持つ、加藤崇氏にお話を聞きました。加藤氏は世界最高の安定歩行・制御技術を誇る、ヒト型ロボットベンチャーSCHAFTの共同創業者兼取締役CFO就任後、2013年11月にGoogleへの同社の売却を実施。ビジネス経験豊富な加藤氏の参画により、SCHAFTは日本のスタートアップとしてアメリカのトップブランドへの売却を果たすという功績を築くことができました。加藤氏は加藤崇事務所の代表を務めながら、一方では、プラントのパイプ点検を行うロボットを開発している、株式会社ハイボットの代表取締役社長を務めており、今後も活躍が期待されています。

 

日本と海外での資金調達に違いはありますか?

SCHAFTに参画した時に私に求められたのは、ロボット開発にかかる多額の資金を調達することでした。当初は国内外問わず、事業会社、VC、エンジェルと可能性がありそうなところを端から当たっていました。しかし資金調達に奔走していた2012年当時は、今のようにロボティクス分野が話題にのぼることはなかったため、日本のVCは私達に投資するという博打は打ちたがりませんでした。そんな中、まだ存在しない市場に投資するというリスクを負うことができ、かつロボティクスという機械産業に必要な資金を出せるような国といえば、米中露くらいしかないことに気づきました。そこで、私達はアメリカにフォーカスして資金調達を行うことにしたのです。

海外のVCにどのようにリーチしたのか、とよく聞かれるのですが、実際は海外の投資家にあたることに対して障害を感じたことはありませんでした。VCは当然ながら良いベンチャーの情報(ディール・ソース)を集めたいと思っています。私達がどのような経路を辿って連絡を試みたとしても、そこには健全な需給関係があるので、先方とアポイントを取ることはそんなに困難なことではなかったと思います。海外から資金調達する上で問題になったことがあるとすれば、それは日本企業から調達するよりもコミュニケーションコストがかかるということです。私達の場合は日本の投資家からは調達しない(できない)と納得した後だったため、米国の投資家からの調達に集中できました。

 

Googleへの売却のチャンスはどのように掴みましたか?

DARPA(アメリカ国防総省高等研究計画局)の技術審査を通っていた後で、SCHAFTという名前が少しずつ世の中に知れていたということもあるでしょうが、直接的には友人の紹介でGoogleのアンディ・ルービン氏にデモを披露する機会を得ることができました。もともと資金調達のためにアメリカのVCをあたっているなかで、一つの選択肢として、Googleの投資部隊につながっていたのです。技術を見たルービン氏が、出資ではなく、買収の提案をしてくれたので、最終的にはM&Aという形に落ち着いたのです。

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2016年4月の新経済サミットで発表された、SCHAFTの新型ロボット

 

海外企業へ売却する際の困難とはどのようなものがありますか?

一つ目に、そもそも多くの技術系ベンチャーの経営者は、M&Aのプロセスについてよく理解している人が少ないということが障害になってきます。そもそも日本ではアメリカなどと比べるとM&Aが盛んではなく、日本のベンチャー経営者は、M&Aという選択肢に関して必然的に情報量が少ないのです。さらに海外企業にM&Aで売却するとなれば、周りにそんな知人がいないことから、そんな発想を持つことも難しいでしょう。私達の場合は恵まれていて、過去数多くのM&Aを経験してきた私と、エンジェル投資家でSCHAFTにも投資をしてくれたTomyKの鎌田富久さん(元ACCESS創業者)が、かつてシリコンバレーで大規模なM&Aを仕掛けた経験があったことから、何とかGoogleとも渡り合えたのだと思います。チーム内にそういう専門性がある人がいない場合には、自分たちに出資してくれているVCに助けてもらうのがいいでしょう。特に海外での実績があるようなVCは、スタートアップを買収したいというような企業とのネットワークを持っているからです。500 Startups Japanのメンターには私だけではなく、過去シリコンバレー随一の弁護士事務所で働いた経験のある増島さん(森・濱田松本法律事務所パートナー)、米マイクロソフト社への会社売却経験のあるウィリアム・齋藤さんもいますから、こうしたネットワークが大きくプラスに働くでしょう。

二つ目に、海外企業とは物量の違いがあります。アメリカの企業はM&Aに慣れていて、百数十ページの契約書を、毎日当たり前のように取り扱っています。その細かい契約の条項一つ一つを交渉していく必要がありました。私が平均睡眠時間4時間で、4ヶ月という期間ノンストップで走り続けても、相手は20人から成るチームですから、物量的にも交渉は困難を極めました。有効な事業売却を行うためには、例えばまずどのような弁護士をつけるかといった入り口の部分からパッケージ化されたプロセスが必要です。ノウハウを構築するためには場数を踏むことが必要で、そういった意味でも、海外企業とのM&Aの経験がある人がVCを含めたチームの中にいることが大切だと思います。

 

結果として、Googleへの企業売却で得たものとは?

一番は信用だと思います。実力至上主義のアメリカ、とりわけシリコンバレーでは、白人であるといったことよりも、Googleに自分のベンチャーを売却した経験があること、アメリカ国防総省に認められた技術ベンチャーを経営していたというトラックレコードが、コミュニティーの中で認知されるための大きな一歩になるのです。Googleに会社を売却したということは、Googleに先駆けて、彼らが進出したいと思うようなエリアを攻略することができたという証拠であるからです。これはハイボットの代表に就任し、ヒト型ロボットと違うロボット分野で仕事をすることになった際にも、大きな恩恵をもたらしてくれました。例えば、ハイボットとしてヒューストンで行われた石油産業におけるロボット技術の適用可能性に関するカンファレンスに参加した際にも、当然ロボット業界の人はSCHAFTのニュースを知っていますから、誰と話をしても、ひとたび自己紹介をする機会が得られれば、少なくとも彼らは私に興味を持ってくれるのです。

もう一つ、私らしいものを挙げるとすれば、アメリカの有名企業に日本の会社を売却したことにより、日本へのインパクトを与えられたということもあります。Googleへの企業売却は、若い人たちにはベンチャーを経営することに対するクールな印象を、また日本の大企業にはある種のショックを与えられました。日本は、一方では産業の空洞化を危惧しながら、一方では相変わらずそれに手を打てていない。だからこそ、『なんで日本が世界に誇る技術ベンチャーが、アメリカ企業に売却されたんだ』という話が、日本が世界に対して持つ優位性、また日本が抱える問題点を強く認識する良いきっかけになったのでしょう。いい意味で日本人は日本の中だけでコツコツといいものを作ろうとしますが、世界で戦えるものを、他国に先駆けてやる意味と必要性があることが、広く社会に伝わったと思います。黒船が到来することは良いことか悪いことか。。その意味と価値は、その瞬間のみを切り取っただけでは、とても評価できるものではありません。

 

加藤さんの今後は?

SCHAFTを売却した後、以前よりゆっくり考える時間ができました。また新たに自分で事業を始めるか、はたまた投資家として生きるか、など色々考えている時にハイボットに出会いました。社外取締役に就任して、しばらくしてから追加の資金調達(シリーズB投資)をアレンジする機会がありました。その際、投資家から、私が社長になることを条件に12億の出資をするという提案が出たことで、現在の立ち位置に至りました。

SCHAFT_HiBOT

HiBotの配管点検ロボット By HiBot USA)

ハイボットは東京工業大学発のベンチャーで、もともとプラント配管の点検ロボットや、高圧電線などの社会インフラ点検ロボットなど、複数のロボットを同時に開発していました。私はその中でもプラント配管の点検ができるヘビ型のロボットの可能性に注目し、そこに徹底的に注力することを決めました。プラントにおける配管は、小さなキズでも穴があいて爆発してしまう恐れがあり、爆発してしまうと復旧までに1日数億円程度の損失がでてしまいます。そのため定期的なメンテナンスが必要ですが、全体のパイプを定期的に入れ替えるとなるとコストがかかってしまいます。修繕や交換が必要なパイプだけを選択的にピックアップしたいという需要はあるのですが、こうしたことを発見する技術に関しては、上手く商業化できていないのが実態です。一方で、ハイボットは高度な技術を持っているものの、市場との対話に苦労していました。

数ある過去のロボット研究から、製品・サービスとして配管点検用の蛇型ロボットに注力したのに加え、現在ではマーケットをアメリカに絞り込み、アメリカの拠点で集中して事業立ち上げを行っています。私がやりたいのは日本が世界的に誇る技術分野であるロボティクス、ハードウェア製品のビジネスモデルを作りこみ、アメリカでガチンコの勝負をすることです。日本の企業が国内でちんたらやっている間に、アメリカではすぐに競合がでてきてしまいます。日本はロボティクスに関して非常に高い技術力を持っていますから、これを上手く使いつつ、最初からアメリカで勝負したいと思ったのです。


HiBotの配管点検ロボット、は狭いパイプの中も自在に移動できる

どのように意思決定していますか?

SCHAFTへのジョインをすぐに決断できたのは、入口で研究者たちが持つ技術の価値や商業的ポテンシャルを見出すことができたからだと思っています。そしてSCHAFTの技術の素晴らしさに気づけたのは、「物事は、見えると思ってよく見ないと、本当の価値が見えてこない」という信条が私にあったことが大きいです。SCHAFTのような素晴らしい技術に出会ったときには、フラットな眼差しでそれを見る必要があるのです。私が早稲田大学で物理を専攻していたからSCHAFTの価値がわかったのではなく、フラットに物を見ることができたからなのです。これは過去私が出会った天才エンジニアから教わったことですが、その技術的差異が専門家しか認識できないような技術は、むしろ社会に大きなインパクトをもたらすことはないのです。素人が見ても素晴らしいと分かるような、他者との差が歴然である技術にこそ、最終的に大きな商業価値が宿るのです。私達が資金調達に奔走した時にも感じたことですが、例えば日本のVCは、目新しい技術に接したときに、自ら問題を複雑にすることで、可能性に投資したり、自分の頭で考えるということから逃げているのではないかと思います。悲観的なのです。それは日本のVCが新しく生まれる価値に投資するという本来あるべきリスクと向き合うことができないために、例えばアメリカで先行事例があるかどうかを主な判断基準とし、自分の選択を担保しようとしているからでしょう。

良いものを見たときに、はっきりと「良い」と発言するには、ある種、責任のようなものが発生します。技術の潜在的価値を見出した後、自分ならばこの技術をなんとかできる(商業化できる)という自信があったこということも、決断への重要な鍵だったと思います。私はそれまでに企業再生のフィールドで本物のプロ経営者として働いてきましたから、こうした仕事を通して、経営のノウハウを積み上げていたのです。どの会社に降り立っても、成功させる自信がある、その普遍的な強みが良い決断に導いてくれました。

挑戦を決めるということは、すなわち荒波のなかに飛び込む(Diveする)ということなのです。Diveは、大きな仕事をするために必要だと私が考えている6つのプロセスの1つです。大きな仕事を成し遂げるためには、この6つ、Encounter、Empathize、Dive、Learn、Encourage、Celebrateを順に通過することが必要で、これは起業家だけではなく、いま人生における重要な選択で迷っているすべての人に伝えたいことです。先月新たに出版した私の著書、『無敵の仕事術』(文春新書)にはこの6つのプロセスについて、私が経験した過去の事例を用いながら、丁寧な解説を試みています。理屈(ロジック)ばかりが先行する人は、最後にはDiveできないということが、この書籍を読むと、分かっていただけると思います。Empathize(共感)こそが、最後にはロジックに勝るのです。

Miyako Yoshizawa

慶應義塾大学看護医療学部4年。ベンチャーキャピタルや外資系証券会社の証券リサーチ部でIT市場のリサーチを経験した後、大学での専門を生かし、ヘルスケアITに注目。米国のヘルステック系スタートアップについて取り上げるサイト「HealthTech News」を2013年に立ち上げる。

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