100M Raising HealthTech Startups

ヘルスケアスタートアップの大型資金調達からみる、2017年の動向まとめ

2017年9月までに、ヘルステック企業が行なった資金調達のディール数はおよそ268で、総額47億ドルが出資されました(RockHealth調べ)。これは過去最高であった2015年の年間出資総額46億ドルをすでに上回っています。このうち、1億ドル以上の調達を行なった企業の数は9社で、昨年1年間の3社を大きく上回りました。2017年第三四半期までに1億ドル以上を調達した企業は以下の通りで、今回はこれらの企業から、今年1年間の動向についてご紹介したいと思います。

院内ディスプレイ広告

Outcome Healthは医師と患者のコミュニケーションを支援する院内システムを提供しており、患者が治療法や生活に必要なことを医師から学べるようなインタラクティブなディスプレイやタブレットを診療所に提供しています。Forbesによると、米国の診療所の2割に導入され、毎年5億8000万回患者が導入医療機関に訪問しており、膨大な量の情報を取り扱っています。同社は今年5月、50億ドルのバリュエーションでGoogleのレイター投資ファンドのCapitalGやゴールドマン・サックスより5億ドルを調達しました。同社は2006年の創業以来、今回が初めてのエクイティファンディングとのことです。

PatientPointは1987年創業の患者のエンゲージメントを向上させるソリューションを提供している企業。Outcome Health同様、院内に設置されたスクリーンを使って、患者への情報提供をスムーズに行えるようにしています。スタートアップというよりも老舗のテクノロジー企業ですが、6月にSilver Point CapitaとSearchlight Capital Partnersからプレ3億6000万ドルで1億4000万ドル調達しています。

Outcome HealthやPatientPointは一見、患者と医療従事者のコミュニケーションを円滑に進めるようなコミュニケーションツールとして展開していますが、実際の収益は診療所内のディスプレイ広告からきている広告のビジネスです。診療所の待合室で待つ患者に対して、大半が処方薬の広告が流されています。製薬企業のDTCマーケティングの規制環境は国によって大きく異なり、広告に関しては世界でも米国とニュージーランドのみ行うことが可能です。 年間の製薬企業によるDTC広告費が50億ドルを超える国故に成功した2社かもしれません。

遠隔フィットネスサービス

Pelotonは室内用のトレーニングバイクを提供しています。大型のスクリーンが接続されており、ユーザーは家庭にいながら生放送でコーチのグループレッスンを受けることができます。同社は2012年の創業以来、7回の資金調達を行なっており、今年5月には12億5000万ドルのバリュエーションで3億2500万ドルを調達しました。Wellington Managementや、Fidelity Investments、KPCB、True Venturesらが投資し、ユニコーンとして名を連ねました。

Pelotonのように自宅にいながらジムやフィットネスクラブのような体験ができる遠隔サービスを展開している企業は2012年ごろから多く見られるようになりました。中でも、以下の3社はすでに買収されており、遠隔トレーニング系でユニコーンが誕生したのは、Pelotonが初になります。

  • Fitster:パーソナライズされたトレーニングビデオを観ながらトレーニングができる。GVも出資。2012年創業、2015年Fitbitが買収
  • Wello:ビデオチャットでパーソナルトレーナーとトレーニングできる。RockHealth投資先。2012年創業、2014年Weight Watchersが買収
  • Sessions:オンラインで担当トレーナーがつき、行動変容やトレーニングを支援してくれる。RockHealth投資先。2012年創業、2014年MyFitnessPalが買収

クラウドカルテサービス

Modernizing Medicineは、iPadやPCからアクセスできるクラウドの電子カルテを提供しています。皮膚科や眼科、整形外科、耳鼻咽喉科、美容整形外科などを中心とする1,300以上の医療機関で導入されています。同社は5月、Warburg Pincusから2億3100万ドルを調達しました。

クラウド電子カルテサービスのスタートアップとして、広く知られているものとしてPractice Fusionがあります。Medscapeによる2016年のレポートによると、米国の診療所の91%が電子カルテを利用しており(2014年は83%)、2014年はそのうちの36%が院内のクローズドサーバーのものを利用し、29%がクラウドのものを利用しているとのことでした。日本ではクラウドの議論以前に、電子カルテ化を進めるべきかといった段階ですが、米国ではすでにクラウドの電子カルテが選択肢の一つとして浸透していることがわかります。

高齢者向けサービス

2013年創業のAlignment Healthcareは、高齢者のためのend to endなヘルスケアサービスプラットフォームを提供しているスタートアップです。同社が提供しているサービスは非常に幅広く、基本的なヘルスアセスメントや慢性疾患の管理、傷病のケアといった医療サービスから請求調整業務や処方箋管理といった部分もサポートしています。また、メディケアアドバンテージの利用者に対しケアやサービスを提供する組織や「CaaS (Care as a service)」としてケアサービスをサードパーティーの法人に提供する事業なども展開しています。

2017年3月にWarburg Pincusから1億1500万ドルを調達し、7月にAmazonの元幹部、ティッソン・マシュー氏がCTOとして就任しました。

患者向けコミュニティ

2004年創業のアメリカを代表する医療情報の共有コミュニティ「PatientsLikeMe」は今年6月、中国のiCarbonXと既存投資家のInvusから1億ドルを調達しました。PatinetsLikeMeは患者やその周りの人々が自らの体験を共有し合うことで、人々が治療のための新しい選択肢を見つけたり、アウトカムを改善するための行動を取れるよう支援しているオンラインコミュニティ。2015年に30万人だったユーザーが、2016年に40万人、そして2017年現在で50万人以上となり、世界を代表するオンラインの患者コミュニティにまで成長しました。

コミュニティとして経験を共有するプラットフォームだけではなく、ユーザーが日々自分の健康状態のデータを入力し管理するデータプラットフォームとしてのサービスも提供しています。研究者はこのデータにアクセスし、研究に活かすことができます。今後、ユーザーセンサーやウェアラブルなどのより豊かなデータを得る方法を検討しているとのことです。

オンラインプログラム

SharecareはWebMDのファウンダー、Jeff Arnold氏によって立ち上げられ、今年3月にWells Fargo Capital Financeからデッドで6000万ドルを、5月にSummit Partnersから8500万ドル調達しました。同社は患者のためのプラットフォームを提供しており、患者が健康的な生活を送れるよう、ユーザーの現在の健康状態を査定し、最適なオンラインプログラムを提供しています。

ユーザーは専門家によるアドバイスやコミュニティサポートを受けたり、体重や睡眠、運動に関わるオンラインツールを使うことができます。ユーザー個人ごとに最適化するため、患者は本当に自分に必要なヘルスケアサービスにアクセスすることが可能になります。

遺伝子検査サービス

消費者向け遺伝子検査サービスと、そのデータを活用した法人向けの研究開発支援事業を展開している23andMeは今年4月、医師の診察を介さずに10の遺伝子疾患に関してそのリスクを検査結果として提供することをFDAが認めました。2013年11月にFDAが、検査結果としての健康情報を提供する行為を一時停止するよう命じて以来ようやく認められたということになります。そしてその後、9月にはプレマネーバリュエーション13億ドルで2億5000万ドルを調達しました。投資家は既存投資家でもあるSequoia Capital、Fidelity Investiments、Wallenberg Foundationsらが参加。シリーズEまで複数回参加してきたGVやNEAは今回は出資していません。

同様に遺伝子検査サービスを展開しているCounsylは妊娠中女性や妊娠希望カップルにフォーカスしてサービスを提供しています。こちらは1億ドル未満ですが、11月にGoldman SachsやFounders Fundらから8000万ドル調達しています。ロボットによる完全自動の遺伝子検査を実現していることも話題になりました。

保険スタートアップ

5月、医療保険スタートアップClover Healthは、GVから時価総額12億ドルで1億3000万ドルを調達しました。既存投資家にはSequoia Capitalらトップ投資家も名を連ね、今回のラウンドにも参加しています。

Clover Healthは医療データを活用し、保険加入者に有効な予防ケアや在宅ケアを提供することで、医療費を抑制している民間の医療保険会社。保険が適用されるネットワーク内だけでなく、他の医療機関も利用できるPPO(Preferred Provider Organization)として保険を展開しています。PPOはネットワーク外の医療機関では保険が適用されないHMOよりも保険料は一般に高くなりますが、PPOの方が利用できる医療機関の選択肢が増えるというものです。HMOより多くの保険料を支払っていても、ネットワーク内外の医療機関で自己負担額が異なるため、なかなか低所得の家庭でPPOに加入することはできませんでした。そこで適切な予防介入をすることで医療費・保険料を下げているClover Healthは、より多くの人が加入できるPPOになるのではないかと期待を集めています。

オバマケア以降、数多くのヘルスケアスタートアップが医療費を抑制できるソリューションを医療保険会社などペイヤーに提供していますが、スタートアップ自体が保険を提供するという企業もClover Healthをはじめいくつか誕生しています。連続起業家で投資家、かつトランプ大統領の娘と結婚し政権入りしているジャレッド・クシュナー氏の弟であるジョシュア・クシュナー氏が立ち上げたOscarもテクノロジーで安価な保険料を実現している医療保険を提供しています。

過去との比較

ここまで2017年に1億ドル以上調達した企業をご紹介しましたが、2016年や2015年に1億ドル以上調達したスタートアップを見てみると、ヘルステックの中でもバイオデータを取り扱う専門家向けデータプラットフォームが目立ちます。

2016年に1億ドル以上調達した企業

  • Human Longevility:研究開発者向けのゲノムデータプラットフォーム
  • Flatiron Health:腫瘍学に特化した、医師向けデータプラットフォーム
  • Jawbone:ヘルストラッキングデバイス

2015年に1億ドル以上調達した企業

  • Nant:データによるパーソナライズを実現した、先進的な検査方法・治療薬を提供
  • Jawbone:ヘルストラッキングデバイス
  • 23andMe:遺伝子検査
  • Zocdoc:医療機関の検索予約サービス
  • Helix:遺伝子データに基づくインサイトを消費者向けに提供

一方で、2017年は消費者向けの情報サービスやエンゲージメントソリューションが多いことがわかります。

アジアとの比較

2016年からの2017年第三四半期までの1年9ヶ月間に、アジアでは43億ドルがヘルステック企業に投資されました。アジアは米国と比較し、まだまだ市場が立ち上がり始めた時期ですが、2017年上半期だけで12億ドルが投資されています。

1億ドル以上調達しているアジアのヘルステック企業は以下の通りで、いずれも中国のスタートアップです。

  • Wuxi Nextcode:遺伝子データベース、TemasekやSequoia Chinaが出資
  • Hao Daifu:医療機関の検索サービス(中国版ZocDoc)、Tencentが出資
  • Gu Sheng Tang Zhong Yi:医療機関の検索サービス、投資家非公開
  • Cloud Minds:AI事業、SoftbankやFoxconnが出資、スタンフォードやカーネギーメロン、ハーバードと提携
  • Ankon Technologies:メディカルデバイス、SB china Capitalが出資

米国のZocDonのような医療機関の検索サービスがもっとも多いことがわかります。アメリカのZocdocが2010年に初めて1億ドル以上(1億5000万ドル)を調達したことを踏まえると、米国とアジア(主に中国)との時間の差は7年ほどだと考えられます。もちろん、何から何までタイムマシンモデルということはありませんが、それでも各地域を比較するときにはわかりやすい基準になるでしょう。

以上、2017年の資金調達の動向を振り返ることで、どのようなサービスが普及しているのかをご紹介しました。今回の内容は、私が運営している 米国発のヘルステックコミュニティ「HealthTech Women」の日本支部「ヘルステックウーマンジャパン」の第三回イベントでお話した内容になります。ご興味ある方はぜひイベントページをフォローしてご参加ください!

吉澤美弥子

慶應義塾大学看護医療学部卒業。在学中に海外のヘルステック企業やデジタルヘルス企業に関して取り上げる、HealthTechNewsを立ち上げ、2016年売却。外資系証券会社の株式リサーチ部で、TMT市場に関わる調査アシスタントなどを経て、500 Startups Japanに参画。

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