
B2B営業に学ぶ、VCへピッチする際に重要な5つの秘訣
「すべての人は」ピッチにおける、優先して達成すべき目標というものを理解しているでしょう。それはあなた自身を記憶に残し、プロダクトの価値を納得させるということです。しかし、すべての事柄を一つに詰め込もうとしようとするのと、退屈させないピッチというのは別問題でしょう。そして500 Acceleratorでもこの部分について広く取り組んでいます。
ここ数年間で私たち500 Startupsは、VCへのピッチを着実に攻略することは、スタートアップの創業者に共通する課題だと学びました。チームの紹介は、会社の紹介の後にすべきでしょうか?事前に最も印象的な指標をリストアップすべきでしょうか?投資家との会話を締めくくるのに最適な方法はなんでしょうか?
素晴らしいピッチは、投資家を惹きつけ、会社の価値を伝えられるよう厳密に構成されています。良しとされる全てのマーケティングや営業と同様に、スタートアップのピッチ過程も当日のピッチ本番からではなく、リサーチ段階から始まっています。
1.ピッチ相手を知る
VCのオフィスに行く前には常に、会う予定の相手を調べ、そのニーズに応じて戦略を合わせるべきです。はじめに、投資家の興味関心を理解しましょう。
- 自分たちの領域に専門性があるVCなのか 彼らの専門知識に合わせたピッチに調節する。
- すでに成功を収めた投資案件を持っているか もしあるならば、同様の見せ方をする。
- ミッションを公開しているか 彼らの優先順位を把握し、それらに基いて話をする。
次にファンドの戦略や詳細を理解する必要があります。そのファンドがあなたに投資する立場にあるのか、また投資の実行権限がある人と話せるのか確実にしましょう。
- ファンドサイズはどのくらいか 2500万ドル規模のファンドであれば、1000万ドルの出資をすることは不可能です
- ライフサイクルは今どのタイミングなのか もしファンドの投資期間が終わりに差し掛かっているのであれば、投資先の選考基準はより選択的になります。
- 誰に会うのか パートナー以下の立場のひとであれば、決定権はありません。たとえ相手に決定権がなくても会いたいと思うかもしれませんが、決定権がないということを知っておくことが重要です。
あなたがすべきことは、企業価値をどのように簡単に、説得力のあるように説明できるか見つけることです。これは会うVCにそれぞれ合わせるべきです。これを探し出せれば、あとはプレゼンで弱点がなくなるまで繰り返し練習するのみです。
2.準備をして、 単刀直入に言う
投資家に質問をし、それに合わせてピッチを調整しましょう。
その代わりに投資家へ、起業家に言及してほしいことは何ですか、と聞くことからはじめましょう。ピッチの焦点を投資家の望むものに合せる上で、この質問に対する答えは非常に役立つものになるでしょう。マーケットサイズだと言われれば、あまった時間をその説明に充てることができます。チームについて聞かれれば、チームについて深く掘り下げれば良いとわかるでしょう。
質問から会話を始めることで、聞き手を惹きつけ、インタラクティブにピッチを進められます。カジュアルな雰囲気でピッチができるので、とても進めやすくなるでしょう。
カジュアルで率直な会話を心がけよう
投資家はあなたの会社に投資するだけではなく、あなた自身に対して投資します。プレゼンテーションをする人とされる人という関係性ではなく、人対人としてカジュアルに会話を始めていきましょう。こういったつながりのほうが、説得力があります。
カジュアルに会話をはじめるきっかけとしては、共通の友人を挙げるなど様々な方法がありますが、重要なことは最も良く、確実にあなたのことを印象付けるということです。Bain Capital VenturesのMDであるScott Friend氏は、常に次の2つの質問を頭にうかべてピッチを聞いているといいます。
- 「この人は、どのくらい良い自身の会社のエバンジェリストになるだろうか?」
- 「この人のために働きたいと思うだろうか?」
この両方の問いの中心には、カリスマ性と人柄があり、これらはいくつかの簡単な会話で早いうちから印象づけることができます。しかし、延々と会話を続けてはいけません。はじめの2〜3分程度カジュアルな会話をし、その後ピッチの核心に入っていきましょう。
簡潔なキャッチフレーズからはじめる
あなたの会社のキャッチフレーズと簡単な説明を紹介することで、ピッチの核心にとりかかりましょう。ピッチの一番最初のタイミングで、投資家に彼らが何のピッチを聞いているのか、なぜそれを気にかけるべきなのかかを、理解させる必要があります。
良いキャッチフレーズとは、印象に残る方法で、会社のビジョンをほのめかすことができるものです。英語の場合には、多くても7単語以内であるべきでしょう。
あなたが掲げたキャッチフレーズに基いて、会社が何をやっているのか説明しましょう。これを誰にでも理解できる言葉で、5秒以内に行いましょう。
例えば、「私たちはFacebook広告を簡単にします (“We make Facebook ads easy”)」は良いキャッチフレーズでしょう。あなたのサービスを単刀直入に説明しています。一方、「 私たちは分散型GPUによるクラウドベース計算とアセンブリー言語によって書かれたトランザクションエンジンにより得られるグローバルなアービトラージにより、相乗効果のあるモバイルビットコインのマネタイズを実現しています(“We drive synergistic mobile bitcoin monetization through international arbitrage using a distributed GPU cloud-based computation and transaction engine written in assembly,”)」という説明では非常にややこしいです。
起業家にとって一番避けたいことは、投資家に精神的な労力を割かせることでしょう。
3.速やかに数字の話題に移る
投資家の興味をそそることができたなら、会社のストーリーに彼らをもっと引き込みたいと考えるでしょう。あなたには次の二つの選択肢があります。
- 強い指標を持っているのなら、なるべく早くその数字を見せて、具体的にしましょう 例)「私は2年前にこのSaaS企業を創業し、直近の年間売上高200万ドルを見込んでいます」
- 説得力のある指標がない場合、あなたがいかに重大な問題に注力しているか伝えましょう 例)「100万人にも及ぶ10代のクリケット選手がデート相手を見つけられず困っていることに気づいたので、この会社を立ち上げました。」
指標について話すときは、会社のストーリーと統一感があるようにしなければいけません。なんのコンテクストもなしに「1000万ダウンロードを達成」と言っても、それのみでは指標は意味を持ちません。
最も適切な数字を見せよ
一般的に、より下層のファネル(マーケティングファネル:広く認知を普及した後、購入にいたるまでに対象が少数になっていくことをいう)から得られる指標ほど、より価値があります。
例えば、2万ダウンロードを達成しているからといって今現在2万人の顧客がいるわけではありません。一方、アクティブユーザー数は、いまトップ層の顧客がどのくらいいるかを示してくれます。
実際の指標はビジネスの詳細によって異なるでしょう。しかし、指標は次のことと関係がある必要があります。
- B2C の場合: DAU / MAU > ダウンロード数 > 提携数
- B2B の場合:売上高 > 顧客数 > 見込み顧客数
B2Cサービスならおそらくアプリでしょうから、ダウンロード数の代わりにユーザー登録数をトラッキングしているでしょう。しかし大抵はこのようにして自分の指標を優先すべきでしょう。
一旦どの指標を見せるか決めたのなら、次の3つのことを心に留めましょう。
- それぞれの数字は互いに支え合っているか? もしもB2Bにおいて大企業の顧客が多数いるにも関わらず、売上高が低ければ、投資家は何かが間違っているのではないかと考えるでしょう。
- 業界のスタンダードな指標を用いているか? VCがあなた独自の指標を翻訳しないといけないようにするのは、物事を複雑にしすぎるでしょう。
- 指標は単独で大丈夫なほど強い指標か? 弱い指標の場合、戦略的パートナーシップを強調して、グロースのための基盤があることを証明しなくてはいけません。
トラクション指標に重点を置いているなら、この戦略に従うことは重要です。トラクションだけでは印象に残らないのなら、他のアプローチが必要になります。
マーケット指標でグロースのポテンシャルを強調しよう
トラクションが十分にないのなら、上限がどのくらい高いのかを強調するマーケット指標が使えるでしょう。ここではマーケットサイズと入手可能性が鍵になります。
Airbnbの最初のピッチは次のような方法で行われました。
このように図で簡単に示すことで、会社がどうなるか示せれば、投資家は起業家が巨大な市場の具体的にどのセグメントを狙っているのか理解することができます。
このアプローチをする場合、市場の顧客が抱える問題をあなたがよく理解していて、それに対しあなたのプロダクトが一番のソリューションだと投資家に確信させなければなりません。ある特定の市場、特定の問題、自身のプロダクト独自の強みについて、誰にでも理解できるように説明できる必要があります。
もしできないのなら、漠然とした巨大な市場を見つけたものの、どのように入り込んでいくか見出だせていない人のように見られてしまうでしょう。
4. プロダクトのストーリーを語る
投資家になぜプロダクトに着目するべきなのか示したあと、あなたは開発に時間を割いた全ての機能をみせたくなるでしょう。しかし投資家が興味あるのは、あなたのプロダクトが解決している問題と、なぜそのプロダクトが問題を解決するうえでベストなのかということだけです。
プロダクトの価値を説明する最も強力な方法は、ストーリーを語ることです。投資家に対し、あなたや想定する顧客(実際の人物であればなお良い)がどのように実際の生活上でペインポイントを感じていたのか、それを解決するためにどのようにプロダクトを考えついたのかといったことを、ゆっくりと自然に話すのです。
あなたはストーリを合理的で、わかりやすいものにしたいでしょう。ストーリーはプロダクトバリューを明確にするものであるべきですし、投資家を個人的にも引きつけるものであるべきです。
もしストーリーがなくても、プロダクトが解決している問題を説明することはできますが、ストーリーがもたらす個人的なエンゲージメント効果を捨ててしまうことになります。それでもなお、誰も共感しないストーリーを語るよりは、よい選択肢でしょう。
プロダクトバリューを見せる
プロダクトについて説明する時は、その便益を中心に説明すべきであり、機能ではありません。それぞれの違いは以下の通りです。
- Benefits(便益):あなたのプロダクトが支援する顧客が達成したいこと 「iPodはあなたのポケットに1000曲もの音楽を持ち運べます」
- Features(特徴・機能): プロダクトが提供すること 「iPodは1GBのデジタル音楽プレイヤーです」
これらの便益は、なぜ顧客があなたのプロダクトを買うのか、なぜあなたの会社の成長を助けるのかであり、投資家にとって最も興味のある点です。しかしながら、便益は会社のストーリーと統一感がある必要があり、簡単に開発したように聞こえるべきではありません。メリハリのないストーリーは退屈ですし、投資家は創業者の浮き沈みを聞きたがっています。早い時期にどのように創業者が苦戦し、ソリューションを構築する上でどのような障害があり、どのようにその障害を克服したのかを知りたいのです。
こうした点はあなたのストーリーを印象的にしてくれますし、ピッチにおいて投資家に印象づけることは最も大事なことです。しかし印象的なだけでは十分とは言えません。一度投資家をストーリーに惹きつけたのなら、あなたのソリューションが一番だと確信させる必要があります。
あなたの会社を収益化してくれるものを特定する
プロダクトバリューを説明することと、そのプロダクトバリューがどうやって収益に結びつくかを見せることは別物です。これには3つの見方があります。
- 競合よりも優れている理由はなにか? 市場に対する専門性を証明し、競合優位性や差別化要因を強調する。
- どのようにマネタイズするのか? 優位性をどのようにお金にするか明確に説明する。
- 今現在収益化できているのか? 現在の収益性を証明するために、CAC(顧客獲得コスト:Customer Acquisition Costre)に対するLTV(顧客生涯価値:Customer Lifetime Value)といった指標を比較する
貴方の会社を真の勝者にしてくれるような素晴らしい何かが必要ですし、それこそが競合優位性です。さらに、その優位性を収益にする明確な方法と、実際にその方法が効果をあげているという証拠が必要でしょう。
しかしながら、投資家は単にプロダクトを評価しているだけでなく、あなた自身を値踏みしているのです。投資家はあなたのチームの能力を信用できる必要があり、この確信を植え付けるのはあなた自身の仕事です。
5.投資家にチームを売り込む
投資家はプロダクトの話以上に、あなた自身のストーリーと、どのようにチームが特別なのかということを聞きたがっています。厳しい状況にあっても、チームが会社を続けるための闘志とスキルを持っているのかを知りたいのです。
また、企業は可能性を探してピボットするものなので、投資家は特にチームに興味があります。しかしチームメンバーの核となる部分はたいてい首尾一貫しているものです。
AirbnbがまだAirBnBだった頃、 Paul Graham (Y Combinatorの創業者)はFred Wilson(Union Square Venturesのパートナー)に投資を勧めるメールを送っていました。Wilson氏はその当時のプロダクトに対し懐疑的だと話したのに対し、Graham氏は、「アイディアは変えることができる。実際に、全ての巨大なスタートアップは、5年も経つと、『信じる信じないに関わらず、僕らは最初ーーから始まったんだ』と語るものだろう」と話し、チームに焦点を当てるよう言いました。
あなたのチームが会社を成長させるのに十分に優秀で、粘り強さがあることを売り込むことは、投資家に確信を持たせるために不可欠です。一番良い例は、500 Startupsのアクセラレーターの卒業生、Headoutにみられます。
Headoutのチームはどのように180万ドル調達したのか
Headoutは旅行者のための、即日のイベント予約アプリを提供しています。2015年2月のDemo Dayでピッチを行い、180万ドルを調達しました。彼らのチームの紹介をみれば、何故だかわかります。
同社は世界の様々な地域を網羅する、レコメンドエンジンを構築しているため、開発担当と事業開発担当の強力なチーム連携が求められます。Headoutのチームはバランスのとれたスキルセットが揃うチームであり、投資家に投資させることができました。
しかしながら単にバランスがとれていること以上に、たった3ヶ月で売上を3倍に成長させたことで、チームはやる気と力強さを示しました。
たった数分間のピッチで、多くの投資家に強い印象を与えたのです。
どのように退室すべきか
ピッチを終えたら、きれいに退室する必要があります。
締めくくりとして、2〜3文程度で短くプレゼンテーションをまとめるべきでしょう。あなた達が何を、どのように行っているのか、そしてあなたの会社の重要な指標を含めましょう。さらにこの時、印象的なフレーズあるいは、最初のキャッチフレーズに、指標を加えたものなどを使いましょう。
ピッチを終えるとすぐに質問があると思いますが、自信を持ってください。ボディーランゲージを続けて、声も自然に、他の共同創業者と話すように投資家と会話しましょう。常に話題をあなたの会社のコアバリューに戻すのです。
投資家が気にしているのは会社の価値であり、あなたのプレゼンテーションの才能ではありません。価値を見せるためにこの定型に従うのであれば、Sand Hill Road(シリコンバレーのトップティアーVCが数多くオフィスを構えている、ある地域)のオフィスを訪ねた際により良い結果を残すことができるでしょう。
最後に、あなたには強力なcall-to-action(CTA:相手に求める行動)が必要でしょう。具体的には、ネクストステップが何で、どのようなタイムラインなのか、理解してから退出するようにしましょう。幸運を祈っています!