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J-KISS: 誰もが自由に使える、シード資金調達のための投資契約書

※J-KISSへのリンクは記事の一番下にあります

Ver1.1公開にあたって(2017年6月12日)

500 Startups JapanがJ-KISSを無償公開したのは2016年4月、そこから1年少しが過ぎました。ここで改めて簡単にJ-KISSの現状についてアップデートしておきたいと思います。

J-KISSは日本版KISS: Keep It Simple Security、つまり簡単に早くシンプルに資金調達するための投資契約書です。シード段階ではシンプルに素早く資金調達を行い、素早くプロダクトマーケットフィットまでたどり着く。そしてシリーズAの時に初めて、優先株を使って複雑な条件交渉を行えば良い、というシリコンバレーで蓄積された経験を形にしたものです。

これまでに500 Japanでは21件の投資を実施し、そのうち9件がJ-KISSでの投資でした。500 Japanがリードする投資の場合は、特別な事情がない限り基本的にはJ-KISSで投資を行っています。

さらに、J-KISSは無償公開されているため、誰でも自由に(必要に応じて編集して)使うことが可能です。実際に、500 Japanが関わらない案件でも多数使われていて、エンジェル投資家や事業会社による出資などにも広まってきています。例えば、朝日新聞アクセラレーターは積極的にJ-KISSを利用していますし、他の有名事例としては、GrooveXの未来創生ファンドからの11億円の資金調達にはJ-KISSと同様のコンバーティブルエクイティが使われました(参考記事①参考記事②)。また、500 Japanは他のVCと共同投資することも多いため、公開案件のみに絞っても、インキュベイトファンドイグニス大和企業投資YJキャピタルEast VenturesDraper NexusサンブリッジコーポレーションAS-acceleratorといった方々とJ-KISSを使って投資を実行させていただいています。

J-KISSには様々なメリットがありますが、投資家によって重要となるメリットは変わってきます。

  • VC:投資実行の速さ
    500 Japanもこの1年で普通株、優先株、転換社債、J-KISSと様々な手段での投資を行ってきましたが、J-KISSを使った投資は交渉から着金までが全てが圧倒的に速く完了します。投資家としてもこの速さは魅力的ですが、何よりも投資家が尊重すべきスタートアップにとって、迅速に資金調達を完了できるということは最も重要なことだと考えています。
  • 事業会社:投資の詳細条件決定の先送り
    特にシードステージのバリュエーションの根拠を、スタートアップ投資をよく知らない経営陣にロジカルに説明するのは至難の業でしょう。正確なバリュエーションは次回の(おそらく)VCがリードするシリーズAラウンドで確定する、というのは事業会社にとって使いやすいポイントのようです。
  • エンジェル:標準的な契約書
    エンジェル投資家は増えつつあり、中には投資経験の浅い人も含まれています。また、そもそもエンジェル投資家にとって投資は本業ではありません。調達経験の浅いスタートアップと、投資経験の浅いエンジェル投資家で、一から契約書を作成し交渉するよりは、ある程度標準化された契約書テンプレートとして無償公開されているJ-KISSを使うというのは選択肢として現実的ではないでしょうか。

一方、J-KISSを使わなかった/使えなかった事例ももちろん存在しました。その理由は以下の3つに集約されます。ただし、いずれも転換社債でも同様の問題は発生し得るため、J-KISSだからできないという事例は現在のところ生じていないと考えています。

  1. 500 Japanがそのラウンドのリード投資家でなかった
  2. レガシーな業界向けの事業で、「資本金」の金額が重要だった
  3. NEDO STSやその他の助成金の条件として「株式による出資」が必要だった

なお、3と同様にエンジェル税制においても「株式による出資」が必須なため、J-KISSによる投資は対象外となってしまうことも今後の課題の一つです。しかし、原理的には償還可能である転換社債と異なり、J-KISSは新株予約権、すなわち完全にEquityに分類されるものであるため、実質的にはこうした助成金やエンジェル税制でも対象とされるべきだと考えられます。対応に向けて経済産業省などとも継続的に協議を続けているところです。

J-KISSを無償公開しているのは、広く利用されてほしいという思いと、オープンソースの精神に基づいて多くの人から意見をもらい、改善を続けていきたいという考えからです。実際に利用を進める中で、登記の際の法務局対応でちょっとしたトラブルが散見されたため、そこに修正を加えたVer1.1を本日付けで公開しました。併せてFAQや解説コメント付きの契約書、Ver1.0との差分なども追加しています。ぜひ幅広い方々にご活用いただければと思います。

Ver1.0公開時の紹介文(2016年4月28日)

2014年7月、500 Startupsはシリコンバレーで一般的になりつつある資金調達手法であるコンバーティブル・セキュリティ(コンバーティブル・ノートとコンバーティブル・エクイティ)の標準ドキュメント「KISS(“Keep It Simple Security”)」を発表しました。500が経験してきた複数のシリコンバレーの法律事務所との様々なディールや、多くのシードステージ投資家のノウハウをベースに業界標準となる投資契約書を作成し、一般に公開することで起業家と投資家双方の時間と費用を節約することを目的としています。

コンバーティブル・セキュリティは、優先株と比較して交渉すべき点が少ない(ガバナンスや議決権、稀釈化などは含まれない)ため、 適切に利用することで資金調達ラウンドをシンプルかつ効率的に進めることができます。また、その後の大規模な資金調達まで、バリュエーションを含めた複雑な交渉の一部を先送りすることが可能になります。

実際のところ、シードステージでは複雑な条件を交渉すべきではありません。そもそもビジネスモデルの有効性を十分に検証するに至っていない段階であり、事業の不確実性が高すぎて会社の価値を評価することは本質的に困難ですし、複雑さが増すことにより弁護士費用が過度に膨らんでしまったり、資金調達完了に時間がかかることでスタートアップにとって最も重要な「スピード」を損なってしまうリスクがあります。

500 Startups Japanは本日、KISSドキュメントを日本の規制や実務に合わせる形で設計されたコンバーティブル・エクイティ「J-KISS」を発表いたします。日本版J-KISSは森・濱田松本法律事務所の増島雅和先生により設計され、KPMGによる税務面からのレビューを経て実現されました。J-KISSには日本語版と英語版があり、両者は同じ内容・条件になるように設計されるとともに、それぞれの言語で自然な契約書になるように作られています。これらはどちらかが正、どちらかが副というものではなく、日本語版のみでも、英語版のみでも資金調達を実行できるようになっています。

J-KISSを誰もが利用できるよう無償公開することで、スタートアップ業界へ透明性をもたらしたいという狙いもあります。私たちを含め、多くの起業家や投資家たちが過去に散々な経験――成功や失敗を重ねてきました。将来のスタートアップが同じ道を辿る必要はありません。私たちはJ-KISSが、起業家と投資家が資金調達プロセスをシンプルに、そして効率的なものにするためのベースとして活用されることを願っています。

最後に、コンバーティブル・エクイティは、日本のスタートアップシーンではまだ新しい実務であり、まだまだ改善点がたくさんあると思っています。コンバーティブル・エクイティの良さは、発行コストの安さにあり、そのためには条件がシンプルで内容が短いことが必要です。また、日本のスタートアップシーンが世界に開けたものとなるため、海外実務との接続性も考慮しなければなりません。今回のJ-KISSは、こうした諸々の点を総合的に考慮して設計されています。スタートアップ法務らしく、皆さんのフィードバックをもらいながら細かい改善を積み重ね、ユーザビリティを高めていければと思っています。ぜひ積極的に質問やコメントなどを書き込んでいってください。

FAQ

J-KISSとは?

500 Startups Japanがオープンソースとして無償公開した、シード投資のための契約書です。
2014年7月に500 Startupsは、KISS(Keep It Simple Security)というシード投資のための標準ドキュメントを公開しました。その後、普及が進み、Y Combinatorが公開したSAFEと並んでシリコンバレーにおけるシード投資契約のデファクトスタンダードとなっています。
日本の規制や実務に合わせる形で設計されたコンバーティブル・エクイティ型のシードステージにおける資金調達のための標準ドキュメントです。森・濱田松本法律事務所の増島雅和先生により設計され、KPMG税理士法人による税務面からのレビューを経て、2016年4月に公開されました。

どのくらい利用されていますか?

500 Startupsによる投資だけでなく、エンジェル投資家や事業会社などによる活用が進んでいます。
500 Japanがリードする投資の場合は、特別な事情がない限り基本的にはJ-KISSで投資を行っており、2017年6月までに行った21件の投資のうち、9件がJ-KISSによる投資でした。
また、500 Japanは他のVCと共同投資することも多いため、公開案件のみに絞っても、インキュベイトファンドイグニス大和企業投資YJキャピタルEast VenturesDraper NexusサンブリッジコーポレーションAS-acceleratorといった方々とJ-KISSを使って投資を実行させていただいています。
500 Japanが関わらない案件でも多数使われていて、エンジェル投資の際や、事業会社による出資などにも広まってきています。例えば、朝日新聞アクセラレーターも積極的にJ-KISSを利用しているし、他の有名事例としては、GrooveXの未来創生ファンドからの11億円の資金調達にはJ-KISSと同様のコンバーティブルエクイティが使われました(参考記事①参考記事②)。

Ver1.1とはどういう意味ですか?

J-KISSはオープンソースであり、広く公開し様々な活用事例を通して改善していくことを目指しています。スタートアップのサービスと同じです。
今回のバージョンアップでは、登記実務をスムーズにするための修正がメインとなっています。加えて、細かなバグフィックスや文言修正も行いました。詳細はredlineをご覧ください。

KISS(米国版、本家)とJ-KISS(日本版)の違いは?

経済的な側面ではほぼ同じです。日米の会社法の違いに基づく登記における実務面だけが異なります。
具体的には、J-KISSの場合は新株予約権として登記が必要なため、株主総会で発行を決議するタイミングで発行する個数を決めておき、その中から投資家に割り当てる、というステップが必要になります。

シリーズA以降はJ-KISSはどうなりますか?

消滅します。正確には、適格資金調達(テンプレートでは1億円以上の資金調達)が行われることが決定した場合、J-KISSは転換されてシリーズA優先株に変わります。J-KISSの投資契約書に含まれる様々な条項は、シリーズA優先株とは完全に独立したものであり、シリーズA転換後はそれらは消滅します。

バリュエーションキャップはプレマネーですか、ポストマネーですか?

プレマネーです。(厳密にはバリュエーションキャップはバリュエーションとは異なるため、株式による投資との比較には注意が必要ですが。)将来の転換の際には、バリュエーションキャップを、「転換する際の完全希釈化後株式数」で除すことで転換価額が定まります。なお、この完全希釈化後株式数には、普通株や優先株に加えストックオプションなども含まれますが、今回発行されるJ-KISSや将来発行されるJ-KISSは含まれません。

J-KISS発行要項5 (2) (a)

(y) _____円(以下「評価上限額」という。)を次回株式資金調達の払込期日(払込期間が設定された場合には、払込期間の初日)の直前における完全希釈化後株式数で除して得られる額
なお、「完全希釈化後株式数」とは、当会社の発行済普通株式の総数(但し、自己株式を除く。)をいう。但し、完全希釈化後株式数の算出上、普通株式以外の株式等(但し、本新株予約権及び転換価額の定めを除き本新株予約権と同一の条件を有する新株予約権を除く。)についてはその時点で全て普通株式に転換され又は当該株式等に付された権利が行使され普通株式が発行されたものと仮定し、本号(c)の場合を除き、当会社において発行を決定し未だ未発行の新株予約権があるときは、当該新株予約権のすべてが行使され普通株式が発行されたものと仮定する。「株式等」とは、当会社の株式、新株予約権、新株予約権付社債及びその他当会社の株式を取得できる権利をいう。

J-KISSが転換される前に買収された場合、どうなりますか?

投資額の2倍で金銭償還するか、バリュエーションキャップで普通株に転換した後で買収されることになります。J-KISSが転換される前に買収されるということはつまり、シリーズAに達する前、つまりプロダクトマーケットフィットする前に、acq-hireされるケースを想定しています。この場合、普通株による投資だと、起業家には数億円といったまとまった額のキャッシュが入る一方で、投資家には投資元本程度しか戻らないことになり、これが一般的になると深刻なモラルハザードのリスクがあります。そこで、転換前に買収される場合は投資額の2倍で金銭償還することを基本としています。

なお、このような2倍程度のリターンは、数十倍から数百倍のリターンを期待するシードVCのパフォーマンスにとってはほぼ意味をなしません。この取り決めはVC向けというよりはエンジェル投資家向けだったり、起業家のモラルハザードを防ぐという意味合いがほとんどです。

J-KISSの登記について教えてください

すでに何件も登記を終えていますが、登記の際に発行要項に修正を入れる必要はありません。発行要項から登記事項のみを抜粋すればそれで問題なく登記可能です。
法務局の法務官によっては、「種類株式」という単語が使われているからというだけの理由で修正するように指示される場合があるようですが、修正を入れる必要はありません。何かあった場合は必ず弁護士または500 Startups Japan(澤山)、もしくは司法書士の真下さんに事前に相談をしてください。なお、現時点ですでに東京都渋谷区、文京区、港区、世田谷区および神奈川県横浜市において問題なく登記が完了していることを確認済みです。


* J-KISSは、日米のベンチャーファイナンスに詳しい森・濱田松本法律事務所の増島雅和先生によって設計されており法的な課題はクリアされていますが、ご利用の際には事前に諸条件をご自身の弁護士と確認することをお勧めします。500 Startupsは、J-KISS利用によるいかなる結果について一切の責任を負いかねます。

*500 Startups Japanは、本契約に係る新株予約権の本邦税務上の取り扱いについて、KPMG税理士法人への確認を行い、基本的には、有償時価発行新株予約権として取り扱われうるものと考えております。ただし、実際の本契約の利用に際しては、その具体的な契約内容に基づき、新株予約権の課税上の取扱いを顧問税理士等にご確認ください。

(Boxにアクセス出来ない方のため、J-KISSファイルを直接ダウンロードできるリンクも置いておきます。)

 

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